天草だより(おしらせBLOG) > 話半分コラム 道具 技術

南西の風の日 ~ある日のスクール~


 三浦半島時代のかなり前の日記から拾い書き。その2

 富士山が真っ白だ。伊豆大島さえ山腹が白い。
丹沢の山々も。
今朝は車の窓が内側から凍り付いて驚いた。
ドアの内側も凍り付いていた。九州ではないだろう。

 今年は春の訪れが2週間早くて、冬も2週間早い。
最近海が荒れてくるのが感じられるようになった。
冬は西風の季節だ。

 海がきらきらと輝き、海面が午前中からざわめく。
表現がし辛いが。荒れた海面は黄金色に光りをかえす。
 シーカヤックアカデミーでお会いした、
知床半島のガイドの新谷さんは風の舌が見えると言う。
強い風の先端がむかってくることだろうか。

 南西の空は妙に雲の群れの間隔が広く、
晴天の空間がひろがる。そんな時だ。



 

 感じてから、荒れ始める、吹き荒れるとなるのだが、
時によってその間がわずか30分だったり、
一時間だったりまちまちだ。はずすこともありそんな時はほっとする。
 大抵の原因は日本海を進む低気圧に向かって風が吹く。
これはごく当たり前の自然の摂理だ。

 半島の漁師は言う。「三日雨降ったら用心しろ」、
「今日は風が(変るのが)速い」
 西風はあっという間にやってくる。
風が起こした波が先にやってくるように感じたこともある。

 豊後水道の鶴御崎では、ある時期の気候を「三風四雨」と呼ぶ。
漁師は海上保安庁の無線による気象速報を通して西風のありかを知る。
 横須賀では一時間毎に更新され2チャンネル、合計10箇所の風向、
風速、波高、うねりの高さ、気圧等が聞ける。
携帯電話でも同様に聞ける。
知らないだけでiモードでも見れるかもしれない。

 その日もそんな1日だった。穏やかで暖かい小春日和。
経験者向きのスクールだ。
 好きな人は月に一回くらいの割合で通ってくる。
僕も半年以上は月に1~2回、熊本から大分のシーカヤック
スクールに通っていたことを考えるとそれ以上に、皆、熱心だ。
 自分で納得いくまで何度もかよう人も多い。
男性よりも女性のほうが多い。

漕ぎ出すとジャケットの下が軽く汗ばむくらいの暖かさだ。
 沖合い4キロの灯台のある亀城礁をめざして出艇した。
時刻は午前10時半すぎ。
11時には風があきらかに西よりに変化した。
もう亀城礁まで1キロもない。白い灯台が目前だ。
柴田はさらりと目標を変更、荒崎を目指す。風にプロテクトされた浜がある。

 その日、ドライトップを忘れて、スカノラックをきたのだが、
かなしいかな、寒くてちょっとラフな海では通用しない。
 袖から侵入した海水は肘まで濡らし、すぐに脇の下まで伝わる。
パドリングパンツと胸の間はスカートのボディーチューブを
かけあがった海水にたやすく濡れた。海水に対して無防備だった。
結局帰りつく頃には下半身はじんわりと濡れた状態だ。

 せめて、ジャケットの裾がネオプレンのウエストバンドで、
袖にラテックスのガスケットが装備されていたらと恨めしく思う。


 晴れてて気温が10℃近くあったから良かったけど、
二枚重ねの下着ではやはり寒い。
ウエットのロングジョンを着ていて良かった。
 最近ウエットブーツの中に毛のソックスをはく。
やっぱりウールだと濡れても暖かいみたい。
お客さんは大抵ウエットのソックスだ。
ケーヨーデーツーや職人の店で買うと¥680くらいだ。

  風を避けると考えていた浜はそれでも吹きさらしだ。
風向もさらに西向きに変り、風がまわりこんできた。
柴田さんはアルミ蒸着のナイロンブランケットに包まっている。
出艇した時はぽかぽかと暑く感じられるくらいで、
僕も休憩時に着るフリースを置いてきたのだ。
近いからとはいえ、すぐに帰れるわけはないのに。

 ダン・ルイスさんのクリニックでは、コックピットの足元に
20リットルほどの小さなドライバッグを用意する。
中には下着上下、フリース上着など
冷たい海で濡れた場合に備えたウエアが入っている。
海に出る際は全員装備する。
 でも、その時、ダンは新しいコーカタットのドライスーツを
きてご機嫌だった。
 ツアーのあと、事務所の前の芝生の上で、
水を張ったバスタブサイズの洗い桶に体育すわりでつかり、
早口で「濡れませぇーん」、「濡れます」、「濡れなぁーい」
などと新しい日本語を活用していた。
 そばにあったジョーの作った伝統的カヤックが
なんとも珍しくて大きいので触りまくった。
 イーグル・アレー・ギャラリーの版画(Chief's Dream )
に出てくる巨大なカヌーだ。
http://www.royhenryvickers.com/

 お昼の休憩後、再び、ところどころ波高1.5メートルの海にもどる。
地雷原のようにブーマーの張り巡らされたフィールドを慎重に進む。
ちょっとリスキーなゲームだ。
でも、その日の追い波はサーフィンには最適なサイズだった。
思いっきり掘られた波のボトムにはマリンブルーの砂底が一瞬広がる。
14時を過ぎた湾は釣り舟の帰船ラッシュも終わり、他に行き交う船もない。
音のない海なので視界だけがたよりだ。
時々、振りかえり確認する。
風と波でそれ以外の音はすべてかき消される。

 前を行く参加者のショアラインはスケッグが空中に度々出る。
なんだラダーとかわらないじゃないか。
波があるときはテクニックだなあと思わされた。
 柴田さんはスターンラダーとクロスバウラダーで水面にしぶきをあげる。
 スターンではなく、身体の真横に深く刺されたブレードは鋭い動きをカヤックに与える。
スピードを殺すことなく長いサーフィンを楽しめる。
水面に吸い付くようなサーフィンだ。このところ不知火Ⅱに乗っている。
軽く、運動性能の良いカヤックだ。イメージどおりのターンが可能だ。
 風と波の中でエッジングが出来る人には
非常に扱いやすいカヤックだろう。

 湾の奥までのサーフィンの後、岸に沿い北へ向かう。
北西の向かい風を正面から受ける。
ケナシ島(想像にまかせる)から参加者は前進できなくなる。
島は地元の人たちのトコブシ採りの場所だ。
 春の大潮の時期はどこの磯もバケツを持った地元の人で
賑わう。

 佐島港から橋下をくぐりぬけ、石川水産前を抜けて、
芦名までの最後2キロはトーイングしたのだが、
最後の一キロが一番荒れていて、目が離せなかった。
港の入り口の防波堤付近はチョッピーで針の山のような
波と強烈なうねりの返しだ。
 台風26号のうねりがかすかに残ってるようだ。
一度だけ牽引中のショアラインが波に乗ってしまい、
斜め後ろで止まった。


 パドルをキャッチの強いブリーズ
(レンダルのパワーマスターのようなもの)
にかえようと考えていたのが、ちょっと躊躇するような状況だ。
 ラフな海面での牽引は小さなブレードが使い良いのかな。
分からない。小さい方が多少ラフな状況でもフルパワーで漕げるけど。
 まだまだ力不足だなあ。
長い距離、荒れた海面、向かい風、
キャンプ用具満載のカヤックの牽引を考えると躊躇する。
 一人で漕いだり、穏やかな日のスクールなら全く問題ないのに。
太平洋に南北に突き出た半島の自然は変りやすく厳しい。

 午後4時クラブハウス帰着。ダンパーの浜に無事滑り込んだ。
右の浜は傾斜が少し急なのでダンパーになりやすい。
柴田さんに先に上陸してもらい、参加者を誘導してもらう。
 波打ち際ぎりぎりまでサポートして上陸してもらう。

Add Comment

このアイテムは閲覧専用です。コメントの投稿、投票はできません。