天草だより(おしらせBLOG) > 話半分コラム 道具 技術

『遠征の初日にわかること』  ~ある冬の日の記録から~


  2002.12.17 (火)
その日の予報 北後、南西の風夕方まで強く、
波の高さ3メートル後2メートル
最大風速15メートル、後11メートル。
雷強風波浪注意報。一時的に冬型の気圧配置。

 こんな日は出艇できる人も場所もが限られる。
強いオフショアのため、柴田さん(アルガフォレスト代表・
詳しくは『カヤック海を旅する本』最新号をご覧ください)
は真鶴から三浦半島への横断を中止した。
 かわりにパタゴニアのスタッフTHと3人で半島の先端にある毘沙門へ移動。
半島の先端の城ヶ島を巡って芦名まで追い波を楽しもうという遊びだ。
THのニヤックを艇庫まで取りに行くのが面倒だったので、
ラックに積んである不知火Ⅱ2艇、ショアライン・フェーゴを使う。



 時刻はお昼少し前だ.
目の前に横瀬島、西に城ヶ島、東に剣崎灯台。
海を挟んで房総半島の山々が横たわる。
視界が良くいつもより近く感じる。
海は多少ラフな感じでどこまでもうさぎが跳ねていた。
 沖の航路をすすむタンカーの列はいつもどおりだ。
昨日、横須賀港を出航したイージス艦もこの海を南下していったのだろう。

 風車は北風にフル回転でまわり、
2基のプロペラの間には真っ白な富士山。
快晴、見渡す限りの冬の青空。つい2時間前までの南西の風は
わずかな時間のうちに北風に転じた。
気温がぐんと下がる。

 
昨夜は風速20メートルの予報どおり一晩中吹き荒れた。
冬の爆弾低気圧だ。
980ヘクトパスカルの前線を伴った低気圧が日本の南岸を通過した。
 残った南のうねりを、勢いを増した北風が押しつぶし、
強烈な波しぶきを上げながら、それでも波は勢いを保ったまま進んでいく。
 セットが入るたびに海の底の岩が波で掘られた空間に剥き出しになる。

 早速、目の前の横瀬島のサーフポイントに入る。
島にあたった南東のうねりは時計回りに岸に沿って走っていく。
 波頭を強風に刈られ、波しぶきが舞い、
そのたびに鮮やかな虹が波の上を走っていく。
横風をハルに受けながら進む。
ハルに当たって砕けた波は大量のしぶきとなって、
デッキの上をなぶる。目も開けてられないとは良く言ったものだ。
 うねりのなだらかな斜面を駆け上がり、
岬の上に立つ白い灯台を見る。
はるか遠くの空にうっすらと円くなりかけた月をのぞむ。
 プラスチックのヘルメットをコックピットにしまい、
ゴーグル代わりのサングラスを装着。キャップを目深にかぶる。

 剣崎灯台の周辺は悪いブーマーがあり、
まわりこむと真正面から北風を受ける。
波頭は砕け散り、水面は砕けた泡の筋がくもの糸のように広がる。
南のうねりと、威力を増した北風とがぶつかり合い海は鋭く乱れた。
 浅い海に勢いを失った南のうねりは、
容赦なく北風に波頭を押しつぶされていく。
逆光に透けたガラスのように次々とはじける波に目を奪われた。

 うねりは風にたたかれ、弱い場所からつぎつぎと崩れていく。
追い波と向かい波が複雑にぶつかり合い、
バウは波頭に突き刺さり、操作しづらくなってきた。
 THさんを風の中待ち南に転じた。

 今度は前からはうねり、後からは追い風だ。
波を乗り継ぎサーフィンを連続で繰り出す。
スターンラダーのために入れたブレードは
スターンにはなく、瞬時にパワーをかけやすいように
コックピットのすぐ脇に深々と突き刺す。

 再度岬を回りこむと、強い横風にあおられる。
深いエッジングを繰り返しつつ前進する。浜に帰ると
ロールの練習を一通り練習してあがる。
満潮で車のすぐ近くに上がれた。
 

 片づけを終え、車に乗りこみバックミラーをのぞくと、
両目の下に白い塩のペインティングが出来ていた。

この日、海からあがった後に柴田さんがぽつりと言った言葉が心に残る。

『遠征の初日にわかること。人は実力以上のことを
発揮するのはなかなかできない。
ただ、それまで習得したテクニックや、体力、
経験で得たことしかでてこないものだ。
もちろん例外もあるが。』

Add Comment

このアイテムは閲覧専用です。コメントの投稿、投票はできません。